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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)4210号 判決 1987年1月30日

原告(反訴被告)

鳴神滋

右訴訟代理人弁護士

中嶋邦明

長谷川彰

若松陽子

柳村幸宏

被告(反訴原告)

平田浩二

右訴訟代理人弁護士

芝康司

山本寅之助

森本輝男

藤井勲

山本彼一郎

泉薫

太田眞美

主文

一  原告(反訴被告)の被告(反訴原告)に対する別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく物損部分の損害賠償債務は一〇三万〇七五〇円及びこれに対する昭和六一年三月二四日以降完済まで年五分の割合による金員を超えて存在しないことを確認する。

二  原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

三  原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、一〇三万〇七五〇円及びこれに対する昭和六一年三月二四日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告(反訴原告)のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを三分し、その二を原告(反訴被告)の負担とし、その余は被告(反訴原告)の負担とする。

六  この判決は、被告(反訴原告)勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(本訴について)

一  本訴請求の趣旨

1 原告(反訴被告、以下原告という。)の被告(反訴原告、以下被告という。)に対する別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく物損部分の損害賠償債務は、二二万五八八〇円を越えて存在しないことを確認する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴について)

一  反訴請求の趣旨

1 原告は、被告に対し、一五八万〇六〇〇円及びこれに対する昭和六一年三月二四日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  反訴請求の趣旨に対する答弁

1 被告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二  当事者の主張

(本訴について)

一  本訴請求原因

1 事故の発生

別紙交通事故目録記載のとおりの交通事故(以下本件事故という。)が発生した。

2 責任原因

原告は、前方不注視の過失により本件事故を発生させた。

3 被告の損害

被告は、本件事故により、その所有する被害車の車両修理代金二二万五八八〇円相当の損害を被つた。

4 訴えの利益

被告は新車の買替えを要求し、その差額を請求している。

よつて、本訴請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  本訴請求原因に対する認否

1 請求原因1、2及び4の各事実はいずれも認める。

2 同3のうち、被告が損害を被つたとの点は認め、その損害額は否認する。被告の損害額はもつと多額である。

三  抗弁

後記反訴請求原因1及び2のとおりである。すなわち、被告は、原告に対し、民法七〇九条に基づき、一五八万〇六〇〇円及びこれに対する本件不法行為の日の後である昭和六一年三月二四日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の請求権を有する。

四  抗弁に対する認否

後記反訴請求原因に対する認否1及び2のとおりである。

(反訴について)

一  反訴請求原因

1 本件事故が原告の前方不注視の過失により発生し、被害車が破損した。

2 被告の物的損害

(一) 車両損害 一〇九万五九五〇円

被害車は被告所有の一九八六年式、E三B二〇〇、ボルボであり、被告が新車で購入し、その引渡しを受けてからわずか約三〇分後に本件事故により破損させられた。本件がもしデイーラーによる顧客への納入途上で発生したのであれば、デイーラーは当然別の新車を顧客に納入するほかなく、加害者はデイーラーに対し新車代金と破損車の時価額との差額を賠償するほかない。新車早々の車を修理による賠償で満足せよというのは余りにも酷である。社会常識的にみても買替えによる損害を認めるのが相当である。その修理見積額は約六七万円に達し、被害車が新車そのものであつたことに鑑み、新車購入代金と被害車の破損後の時価との差額が損害であるとするのが相当である。仮に、新車買替えが認められず、修理代をもつて損害とするというのであれば、その修理代は原状に最も近似する程度の修理代、すなわち、乙第三号証記載の修理代とすべきである。被害車は新車そのものであつたのであるから、右程度の修理は相当性がある。また、修理代を損害額とするなら、修理によつて回復しきれないいわゆる評価損も損害となる。

新車購入代 三一九万二九五〇円

被害車の破損後時価額 二〇九万七〇〇〇円

損害額 一〇九万五九五〇円

(二) 査定代金 七一五〇円

被告は被害車の時価額の査定を財団法人日本自動車査定協会に依頼し、右金額を支払つた。

(三) 代車料 二七万七五〇〇円

被告は本件事故により被害車が使用できなくなり、訴外株式会社梅崎タイヤから代替車を借り受けた。昭和六一年三月二三日から同年四月一二日まで二一日間の代車料は右金額となる。

原告は被告に代替車の借入れを承諾し、その後原告は本件の処理について明確な態度を示さないままいたずらに時間を徒過し、四月一二日ようやく原告代理人がその態度を示す書信を発信した。したがつて、加害者として修理か否かの態度が明示されないために延びたため生じた損害がある場合、明示できるのにこれをしなかつた加害者において負担すべき損害というべきである。

(四) 弁護士費用 二〇万円

(五) 計 一五八万〇六〇〇円

よつて、被告は、原告に対し、民法七〇九条に基づき、一五八万〇六〇〇円及びこれに対する本件不法行為の日の後である昭和六一年三月二四日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  反訴請求原因に対する認否

1 反訴請求原因1の事実は認める。

2(一) 同2のうち、被害車の年、型式及び車名は認め、被告が新車で購入し、その引渡しを受けて約三〇分後に本件事故があつた点は不知、修理見積額が約六七万円である点は否認し、その余の事実は不知、主張は争う。

なお、乙第三号証によれば、修理見積金額が六七万〇七六〇円であるかのような記載があるが、これは、本件事故と相当因果関係のない全塗装代金三六万円が含まれたものであり、右金額を控除すると、修理見積額は三一万〇六七〇円となり、原告主張の修理見積額と近似することになる。

(二) 同2の(二)ないし(五)の各事実はいずれも不知。

第三  証拠<省略>

理由

一本件事故が原告の前方不注視の過失により発生し、被告所有の被害車が破損したこと及び本訴請求原因4の事実は当事者間に争いがない。

したがつて、原告は、被告に対し、民法七〇九条に基づき、本件事故よる被害者の破損から生じた後記二の損害額を賠償すべき責任がある。

二原告が賠償すべき損害額について

1  <証拠>を総合すれば以下の事実を認めることができる。

(一)  被告は、昭和六一年三月二三日、諸経費込みで三一三万〇二〇〇円(車両本体価格二九五万円)で新車の本件被害車を帝人ボルボ株式会社から購入し、同日午後一時ころ、同車の引渡を受けた。そして、被告は、その約三〇分後に本件事故に遭つた。

(二)  本件事故により、被害車は後方から追突されたため、ナンバープレート、ブラケット、バックプレート、トランクフード及び右リアバンパー下のスカート部分が変形し、トランクフードのヒンジがひずんだ。右修理に要する費用は、日動火災海上保険株式会社の損害調査を担当している岡田馨技術アジヤスター作成の損害調査報告書(甲第一号証)によれば二二万五八八〇円であり、その内容は部品代が六万九八八〇円、工賃が一五万六〇〇〇円(うち部分塗装代七万七五〇〇円)であり、他方、被告が被害車を購入した帝人ボルボ株式会社大阪支店の中川幸男作成の見積書(乙第六号証)によれば六七万〇七六〇円であり、その内容は部品代が一〇万七七六〇円、工賃が五六万三〇〇〇円(うち全塗装代三六万円)である。右後者の見積は、被告において、被害車をできるだけ事故前の状態に近づけることを要望してなされたものである。

(三)  被害車の未修理状態における本件事故後の評価額は二〇九万七〇〇〇円である。なお、右価格は車の所有者において通常負担すべき諸費用(車検料、自賠責保険料、税金等)が支払済である点を考慮に入れたものである。

2  ところで、被告は、本件被害車の車両損害額の算定について前記事実摘示(反訴について)一2(一)の如く主張するところ、本件被害車の破損の程度は前認定したとおりの程度であるから、修理することによつて現状回復が可能な場合であるというべく、本件が新車購入後わずか約三〇分後の事故であるという点を考慮に入れても、同種、同型の新車に買替えることがやむを得ないものとは未だ認められない。

しかるところ、本件の場合、その車両損害額を如何にして算定するかは一つの問題である。そして、修理費及び評価損を基準にして車両損害額を算定するのも一つの方法ではある。ところで、信義則上、被害者には損害を最小限にとどめる義務があり、また、損害を公平に分担させるという損害賠償法の基本理念からみて、被害者に当該不法行為がなかつた場合以上に利得させない限度で被害者を被害を受ける前の経済状態に回復させることが重要であることに鑑みれば、本件における車両損害額は、本件事故発生当時における事故前の本件被害車の価格から本件事故後の未修理状態における同価格を控除した額とするのが相当である。そして、新車であつても一旦販売されて登録されると、いわゆる登録落ち(車検落ち、あるいはナンバー落ち)により車両価格の評価は下落するものであるところ、右下落の割合につき、前記川田証人は約一五パーセントと、同岡田証人は一〇ないし一五パーセント前後である旨証言しているので、多くとも一五パーセント程度と認めるが相当である。そうすると、本件被害車の車両本体価格は前認定のとおり二九五万円であるから、登録落ち後の車両本体価格は右価格に〇・八五を乗じた二五〇万七五〇〇円を下回ることはないというべきである。ところで、<証拠>を総合すれば新車購入の際には車両本体価格定価からある程度の値引きがされるのが通常であると認められ、<証拠>によれば本件被害車あるいはそれと同種、同型車では一五万円の値引きがなされていると認められるので、本件被害車の新車の現実の車両本体価格は二八〇万円であると認められる。したがつて、実際の登録落ちによる価格下落分は二八〇万円から前記二五〇万七五〇〇円を差し引いた二九万二五〇〇円であると認めるのが相当である。そうすると、本件事故発生時における事故前の本件被害車の価格は前記本件被害車購入価格三一三万〇二〇〇円から右実際の登録落ち分二九万二五〇〇円を差し引いた二八三万七七〇〇円であると認められる。

右によれば、本件における車両損害額は、右二八三万七七〇〇円から本件事故後の未修理状態における本件被害車の価格の二〇九万七〇〇〇円を控除した七四万〇七〇〇円であると認めるのが相当である。

3  <証拠>によれば、反訴請求原因2(二)の事実が認められ、右査定代金七一五〇円の支出は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

4  <証拠>によれば、被告は、昭和六一年三月二三日から同年四月一二日までの代車料として二七万七五〇〇円を負担したものと認められるけれども、前認定したとおり、本件では修理によつて現状回復が可能な場合であつたのであるから、速やかに修理に出していれば、適切な修理期間相当日数の代車料の負担で事足りたはずである。そして、<証拠>を総合すれば、二週間の代車料に限り本件事故と相当因果関係があると認めるのが相当である。そうすると、<証拠>によれば、本件事故と相当因果関係がある二週間の代車料は一八万七九〇〇円であると認められる。

5  本件事案の性質、審理の経過及び認容額等に鑑みれば、本件事故と相当因果関係があるものとして原告に負担させるべき弁護士費用は九万五〇〇〇円とするのが相当である。

三以上によれば、本訴についての抗弁及び反訴請求は、被告が、原告に対し、一〇三万〇七五〇円及びこれに対する本件不法行為の日の後である昭和六一年三月二四日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においてそれぞれ一部理由がある。

よつて、本訴請求については、原告の被告に対する本件事故に基づく損害賠償債務は、右金員を超えて存在しないことを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、反訴請求については、右金員の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官佐堅哲生)

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